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東京高等裁判所 平成4年(行コ)103号 判決

東京都世田谷区等々力五丁目一三番一二号

控訴人

亡駒村清相続財産管理人 野口敬二郎

東京都多摩市乞田一六〇五番地二

控訴人補助参加人

駒村美佐子

右訴訟代理人弁護士

田井純

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被控訴人

右代表者法務大臣

後藤田正晴

右指定代理人

足立哲

深井剛良

村瀬次郎

斉藤和

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用中、参加によって生じた費用は補助参加人の負担とし、その余の費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人と被控訴人の間で

(一) 亡駒村清が昭和五七年三月三日八王子税務署長に行った昭和五四年分の所得税の修正申告に基づく、修正申告納税額金六九〇万五〇〇〇円の債務及び同金額に対する延滞税債務

(二) 八王子税務署長が亡駒村清に昭和五七年五月二日通知した同五七年四月三〇日付け賦課決定処分に基づく、同五四年分所得税確定申告額に対する過少申告加算税金一七万三〇〇〇円の債務及び重加算税金一〇三万三二〇〇円の債務

(三) 亡駒村清が昭和五七年三月三日八王子税務署長に行った昭和五五年分の所得税の修正申告に基づく、修正申告納税額金二二〇万二四〇〇円の債務及び同金額に対する延滞税債務

(四) 八王子税務署長が亡駒村清に昭和五七年五月二日通知した同五七年四月三〇日付け賦課決定処分に基づく、同五五年分所得税確定申告額に対する重加算税金六六万〇六〇〇円の債務

が存在しないことを確認する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却の判決

第二当事者の主張

以下に付加するほか原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人ら)

亡清は、八王子税務署担当官の一方的な推計により算出された所得税を基にした強力な申告指導により、右推計による所得額が実所得額を大幅に上回るものであっても、税法に基づく課税処分が可能であり、担当官の算定したとおりの所得額に応じた申告義務があるものと誤信し、本件修正申告をなしたものである。このように、納税申告を受理すべき税務署の担当官の指導によって誤信を生じ、その指導のとおりになされた本件修正申告には、客観的に明白かつ重大な錯誤があり、税法上本件修正申告の誤りを是正する方法はないから、納税者の利益を著しく害する特段の事情があるというべきである。

(被控訴人)

税務署担当官が亡清に示した調査額は、亡清の帳簿書類の記録及び保存が不備であったため、売上金額の実額を把握することができず、やむを得ず推計により算出されたものであるが、右調査額は合理的に計算されたものであり、担当官の勧告は適切なものである。また、納税申告については客観的に正しい所得額に基づいてなされていれば、その有効性に疑問の余地はない。

第三証拠

原審記録中の書証目録及び証人等目録並びに当審記録中の証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  納税申告書を提出した納税者が、申告の内容に過誤を発見した場合は、一定の期間内に限り更正の請求をすることができるものであり(国税通則法二三条等)、そして、納税申告書の過誤の是正は、原則として、右の法定の方法によるべきものであって、錯誤の主張は、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、右の法定の方法以外にその是正を許さなければ、納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限り許されるものというべきであるところ、亡清のした本件修正申告につき、その申告書の記載内容にそもそも錯誤があったとは認められず、また、本件修正申告が亡清の真意に基づくものではないと認めることができないから、当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、原判決「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるからこれを引用する。当審における証人駒村美佐子の証言も右判断を左右するものではない。

二  なお、控訴人らは、本件修正申告は税務署担当官から亡清に対しその勧告のとおり申告するようにとの強力な指導により、実所得額の如何に関わらず右勧告に応じなければならないと誤信したことにより錯誤に陥ったものであると主張するが、仮にそのような指導がされたとしても、原判決説示のとおり、申告が客観的に正しい所得額に基づくものであれば、その申告が有効であることは疑う余地がないというべきところ、本件修正申告書に記載された亡清の係争年度の所得額が客観的に誤っていることを認めるに足る証拠はないから、右主張は採用できないことは明らかである。

三  よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条、九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 大坪丘 裁判官 福島節男)

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